福祉のこころ 地域医療・包括ケアの現場から(16)local_offer福祉のこころ
社会福祉士 福島けんじ
ホームレスの自立支援に思うこと
私は、ホームレスの人たちの「自立支援センター」で、就労先や住まいを探す手助けをする仕事をしていました。
最近では、あまり見かけなくなりましたが、東京都区内で2000年代初めには6000人近くいました。最近では約700人に減っています。
45歳になるYさんは、職を転々とした末に失業。アパートの家賃が払えなくなり、カプセルホテル、マンガ喫茶で寝起きしていましたが、お金が尽きてついに繁華街近くの公園で、路上生活をするようになりました。
ここで、巡回相談員に声を掛けられ「緊急一時保護センター」に入り、その後、就労を目指す「自立支援センター」に移ってきました。施設指導員は、Yさんから話を聞き、アセスメント(評価)を踏まえて就労、住居の支援をします。
当初Yさんは「おはよう」と声をかけても無言で、目も合わせません。食堂でお膳を運ばれても「ありがとう」の言葉もありません。お試しで、早朝のビル掃除に行くことになりましたが、寝過ごして就活に失敗。ホームレスの人たちに接して初めに気付くのは、ほとんどの人が「挨拶をしない」ことです。他人との関係を断ち、自分の殻にこもっているのです。
また、ほとんどの人が、「我慢ができない」のも特徴的です。職を転々とした理由の多くは、仕事そのものではなく人間関係で我慢ができなかったからのようです。
それから、「ルールが守れない」、「掃除ができない」のも特徴として挙げられます。例えば、就労支援を得て資金を貯め、アパートに移っても、部屋の中はゴミ屋敷の場合がほとんどです。何故かというと、ゴミ出しのルールが守られず、そのために苦情を言われ、その後はゴミを部屋にため込んでしまうのです。
5番目は、「自炊ができない」のも特徴です。面倒だからといってコンビニ弁当ばかり。偏食がたたって糖尿病などになり仕事ができなくなります。
これらの五つの特徴を私は「ホームレス負の5則」と呼んでいます。
それでは、この5則からどのようにして脱出するのでしょうか。1か月ほど後に施設の大掃除があり、トイレと洗面所をYさんと一緒に行うことになりました。そのとき、洗面所の天井に油がこびりついており簡単には落ちませんでした。私が「こりゃダメだ。Yさん何とかならない?」と助けを求めました。すると、彼はにやにや笑いながら「福島さん、へっぴり腰だね、見てられないよ。洗剤の付け方が間違っている。ちょっとどいて、俺がやるから」と初めて口を利き、自らやって見せたのです。
翌朝、Yさんに「おはよう」と声を掛けると、「あー」と声を出して応え「就活に行ってくるわ」と言います。「こっちはおかげで筋肉痛」と返すと、「そんなヤワだとホームレスもやれんね」と、またニヤリと返されました。
ああ、挨拶もあり、会話も成り立った! Yさんは、私を助けることで自分の殻を破ることができました。ちょっとした、他のために生きたことでホームレス負の5則を突破することができました。
これからも、この体験を活かし、一歩一歩踏み出していってほしいと念じざるを得ませんでした。